2015年5月19日火曜日

Let Me Down (No Use For A Name)

「孤独」は逃げ場か、それとも地獄か…

 この曲は大苦戦しました。訳自体はそれほど難しくないのですが、コンテクストの中で解釈を導くのに時間がかかりました。一週間もかかってしまいましたが、なんとか完成です。

 心に抱えた闇や後悔の過去が生き方を大きく変えてしまうことがあります。
 この曲に出てくる「彼女」は、さしずめ複数の男性と関係を持っていないと安心できない女性。自分を守るためについた嘘が、いつのまにか本物の自分を縛り付けてしまい、孤独を好むようで本当は暖かいつながりを探している。
 まるで人間の弱さと汚さの権化のような…
 それでも好きになってしまったら「僕が救いたい」なんて思ってしまいますよね。
 この主人公は果たして幸せになれるのでしょうか。



She's never alone,
because she's scared of what she might say to herself
Always drinking in the backroom of the bar where everyone turns in
A half-hearted grin

She won't be afraid
as long as that prescription keeps going through
And all the happy pills make her look like cardboard cut out of someone,
I use to learn from

But on the phone, she's telling everyone,
that there was a blue sky, she left behind
And there's a place that no one knows about,
Away from integrity she writes a book in her head that nobody will read

Whatever you say,
please don't talk about the time when she was young
Apparently that was a different person and so long ago it's strange to me,
there's no history

But there's a past and she's telling everyone It must be a garden,
that wouldn't grow with roots of shame,
Too sensitive to blame to herself as we watch he drown,
I can't save the queen without a kingdom or a crown

Somewhere in this lonely game of sympathy there is a selfish dream
That makes me sick
Standing on the high wire while you're on the ground
To you what is dangerous is safe and sound...
You let me down


彼女は決してひとりにならない
なぜなら彼女は、自分自身と向き合うことを怖がっているから
そしていつも、みんなが上辺だけの笑いを浮かべるBARのバックルームで呑んでいる*

彼女は取り巻きがいるうちは安心していられるけど*
その「幸せのクスリ」のせいで彼女はまるで自分の人生を失ってしまっているように見えるよ*
僕はずっと見てきたんだ

でも彼女は電話越しに*
「今までの私の人生は順調で、まだまだこれからだったけれど、それを手放してきたの」と語り歩く*
そして完成することのない、誰も読まない物語を描くんだ

何を話すにしても、昔の話なんてやめてくれよ
どうやら昔の彼女は今とは別人だったようだけど、
そんな彼女を全く知らないし、僕にとっての彼女に歴史なんてないんだ

けれど過去は存在するし、彼女はそれを語るんだ
「私の人生はこれからだった。でも悪い事情のせいで花は咲かなかったのだ」と*6
彼女の取り巻きがその話を熱心に聞いているのをみると彼女を咎める気にもなれない
地位(王国)も名誉(王冠)もない僕にはあの姫は救えないんだ

この孤独な同情のゲームのどこかに、僕を悩ませる自分勝手な夢がある
君が安全な地面だと思って立っているのは実は綱渡りのワイヤーで、
今の君にとっての「危険」こそが、安全で居心地の良いものなんだ
こんな君は僕を失望させるよ


*1 その場や上辺だけの都合の良い非日常的なバーという場所は「彼女」が暮らす世界のメタファー的表現で、そのバックルームで彼女は呑んだくれているわけですから、本心は現状に満足できず不貞腐れているのではないでしょうか。

*2 prescription =処方箋=彼女の言うことを都合よく聞き、上辺だけでも頷いてくれる人々 と捉えました。最近の言葉で言う「キョロ充」的な状態ですよね。

*3 cardboard cut out of someone = 厚紙でできた他人の切り抜き の文学的表現も捨てがたかったのですが、意訳しました。

*4 「電話越し」とはもちろん実際に電話をしているわけではなく、今で言うSNSに投稿している感覚でしょうか。

*5 blue sky =順調な人生 と捉えると、文脈もすっきりとおさまります。

*6 直訳すると「私の過去はきっと庭だった。でも過ちの根のせいで育たなかったんだ」という非常に文学的な表現になります。ここが一番悩みました。


心にグサリと刺さる忠告

 この「彼女」は典型的な悲劇のヒロイン、手近な人々との浅く好都合な繋がりを心の処方箋としています。
 嘘や見栄で固まってしまった今の彼女にとっては「安全」なのかもしれませんが、その人たちのhalf-hearted grinの下に隠された打算や下心を想像するとゾッとします。
 個人的には「僕」に共感する部分が大きいです。

 が、砕いていくと本当は「彼女=僕の弱い心」で、この歌詞は自分自身に向けた叱咤の言葉なのではないかと思わされる節もあります。
 「彼女」のことを批判し、救いたいと思う一方で「僕」には王国も王冠もないからと及び腰になっている「僕」こそ、「彼女」にとらわれ、自分の人生を失っているように思えるからです。そんな自分に失望している、なんて解釈は行き過ぎでしょうか…。

 一言で言うなら、あまりにも女々しい、かといって自分に心当たりがないわけでもない、そんな歌でした。


 どちらにせよ、「彼女」の饐えた心が少女のように救われ、誠実と真の愛に気づき、本当に愛してくれる人と一緒になれることを祈るばかりです。
(願わくば、それが「僕」であらんことを…、なんてね。)


 自分の弱くてズルくて汚いところと向き合った時、受け入れることと開き直ることは別物ですよね。

2 件のコメント:

  1. 素晴らしい意訳でスッと自分の中に入ってきました。ありがとうございます。

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  2. ありがとうございました。確かに、救いたいけど救えないといっているあたりが単純な彼女批判から一線を画して自分の弱さや彼女の生き方への共感のようなものを垣間見せている気がします。

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